組織活性化とは?──社長と右腕、それぞれの役割

1.はじめに:ベンチャー企業と組織開発

ベンチャー企業の成長において、アイデアやスピード感は重要な要素です。しかし、次の成長ステージに進むとき、これだけでは不十分だと気づく場面がやってきます。

たとえば、

・社長の情熱が伝わらず、チームに方向性のズレが生じる
・変化にスピードに戸惑うメンバーが出てくる
・自分の役割が曖昧で、主体的にならず受け身になってしまう
・価値観の違いやモチベーション低下で、離職が続く

こうした課題に直面する企業は少なくありません。

なぜ、このような課題が起こっているのでしょうか。

そこで注目したいのが、「組織活性化」というアプローチです。

本記事では、組織活性化の基本を分かりやすく解説し、ベンチャー企業が次のステージへ進むために何が必要かを考えます。

2.組織活性化とは

組織活性化を一言でいうと、

「組織を健全で強いチームに育てる、意図的な取り組み」です。

ポイントは「意図的」という部分です。組織は自然と育つ面もありますが、重要なのはどんな“意図”を持って組織を育てていくかです。

​​社長やリーダーが方向性を示すことは重要ですが、メンバー自身が主体的に動き、方向性を共有・発信できる環境を整えることで、組織全体の力を引き出すことができます。

制度やルールを整えるだけではなく、チームの関係性やプロセスに働きかけることで、メンバーが自律的に動き、組織全体で成果を出せる状態を目指します。

「人材開発」が個人の成長に焦点を当てるのに対し、「組織活性化」は関係性や文化、プロセスそのものにアプローチします。

3.組織活性化の目的

組織活性化の目的は以下の3つに集約されます:

1. 信頼と安全性を育む基盤作り

  • チーム内の信頼関係を深め、心理的安全性を築く。

2. 成果を最大化する仕組み

  • 個々の役割と目標を明確にし、組織全体が一丸となって成果を上げられる環境を作る。

3. 長期的な成長を支える文化形成

  • 組織の価値観や目標を共有し、新しいメンバーが加わっても成長を継続できる文化を育てる。
  • チーム内に信頼と心理的安全性を築く。
  • 社員同士がサポートし合い、意欲的に働ける環境を作る。

4.組織活性化が解決する課題

特にベンチャー企業では、以下のような課題が頻繁に見られます:

方向性のブレ

  • 社長がスピード感を持って意思決定をする一方で、社員がその意図を理解できず、混乱が生じる。

社員間の温度差

  • 創業メンバーと新しい社員の間で「価値観」や「ゴール」についての認識が異なる。

属人化

  • 特定の人にしか分からない仕事が増え、チーム全体での協力が難しくなる。

モチベーションの低下、離職の連鎖

  • 忙しさや急激な変化についていけず、早期退職が繰り返される

主体性の停滞

  • 組織の目的や自分の役割が不明確なまま、社員が「言われたことだけをこなす」状態にとどまり、積極的に関与する力が弱まっていく。

これらは一見バラバラに見えて、組織の「関係性」と「文化」の問題であることが多いのです。

5.ベンチャー企業で組織活性化を成功させるポイント

では、ベンチャー企業で組織活性化を成功させるには何が必要なのでしょうか?

1.「社長の感覚」を言語化・共有できる右腕がいること

ベンチャーの多くは、社長の直感とスピードで動いてきました。その“感覚”を現場に翻訳できる存在が不可欠です。

  • 社長の意図を「現場語」に変換し伝える
  • 現場のモヤモヤを「経営語」に変換し返す

この双方向の翻訳と調整を担う右腕の存在が、組織の滑らかな成長に欠かせません。

2.制度よりも「関係性」へのアプローチを優先する

変化の激しい環境では、マニュアルや制度より「空気感」のほうが重要です。

  • 評価制度より対話の習慣
  • 明文化より心理的安全性
  • ルールより信頼関係

“制度”はあとで整えられる。でも、関係性のベースがなければ何も機能しません。

3.完璧を目指さない。「小さく始める」姿勢

変化が激しく、正解がひとつに絞れない場面も多い今の時代において、組織活性化も、“完璧を目指す”よりも“まず試してみる”という柔軟な姿勢が求められます。

  • メンバーとの1on1
  • 経営陣同士の本音を話す場を定期的に設ける
  • 組織内で起こっている“違和感”を共有する
  • お互いの価値観や大切にしていることを知る時間をつくる
  • 日々の仕事の“意味”をふり返る時間をつくる
  • お互いに対するフィードバックを言葉にして届ける

スピードが早いベンチャーでは、「計画を練ってから」よりも、「まずやってみて、合っていれば続ける、違えば変える」くらいの進め方が現実に合っています。

6.社長と右腕、それぞれの役割

小さな取り組みを積み重ねていくにも、それを“推進する人”の存在が欠かせません。

そこで大事になってくるのが、「誰が、どの立場でどのように組織に働きかけるか」という構造です。

ハーバード大学のロナルド・ハイフェッツが提唱する「アダプティブ・リーダーシップ」という理論があります。彼は、組織課題を以下の2つに分類します:

  • 技術的課題:すでに答えがあり、トップが判断・実行すればよい問題(例:資金調達、戦略決定)
  • 適応課題:答えがなく、現場の感情や関係性を整えながら解決していく問題(例:モチベーション、カルチャー、信頼)

この視点に立つと、次のような役割分担が見えてきます:

  • 社長は外を見る:未来を描き、ビジョンを示し、決断する
  • 右腕は内を見る:現場の空気を整え、人が動きやすい状態をつくる

社長がビジョンを掲げ、右腕が現場を整える──。この役割分担は、組織が健やかに前に進むための自然なあり方です。

7.組織の“体温”を整えるのは、右腕の仕事

社長が「旗を立てる人」だとすれば、右腕は「その旗のもとに人を集め、動かす人」です。

現場の声を拾い、違和感を言語化し、必要な対話を生み出す。時には、社長にも見えない“摩擦”や“温度差”に気づき、現場を調律する。
その力が、組織の未来を左右します。

8.右腕は、何から始めればいいのか?

大きな変革である必要はありません。まずは、今の現場で感じているモヤモヤを言葉にすることから始めてみましょう。信頼できる相手との1on1や、小さな対話の場の設定でも十分です。

重要なのは、答えを出すことではなく、現場の“見えない問題”を“見える化”すること。それが、適応課題に取り組む第一歩になります。

まとめ:組織活性化とは、組織の“空気”を整える営み

社長が未来をつくる旗を掲げるなら、右腕はその場に「温度」と「推進力」を与える存在です。

組織活性化とは、ただ人を育てることでも、制度を変えることでもなく、
“人が動きたくなる空気”を意図的につくり出すこと。

その第一歩は、小さな対話かもしれません。あるいは、「このままじゃまずい」という違和感を、そのままにしないことかもしれません。

組織の“内側”を整える一歩を、今こそはじめてみませんか?