1.プロセスワークにおける「ランク」
さて、こちらの記事にある私たち母子関係のような関係性は職場においても再現されているのではないでしょうか?「親子」や「上司部下」といった関係性には「上下」というランクとパワーの圧倒的な違いがあります。「ランク」と「パワー」は、個人や組織の中でどのように影響力が働くかを理解するための概念です。「ランク」は、個人が持つ権力や特権の度合いを指します。ランクにはいくつかの種類があります。
① 社会的ランク(Social Rank)
- 組織内の地位(上司・部下)、社会的ステータス(性別・年齢・人種・経済状況)など
- 高いランクを持つ人は、無意識にその権力を行使してしまうことがある
② 心理的ランク(Psychological Rank)
- 自己肯定感や内面的な成熟度、ストレス耐性、経験値など
- 心理的ランクが高い人は、外的な状況に左右されずに行動できる
③ スピリチュアルランク(Spiritual Rank)
- 人生経験を通じた洞察、価値観の深まりなど
- 物事を俯瞰できたり、困難な状況でも意味を見出せる
ランクは生まれつき・環境・経験によって形成されますが、それを意識的に使うことで健全な影響力を発揮することができます。
プロセスワークでは、「ランクがあること自体は問題ではなく、それをどう意識的に使うかが重要」と考えます。無自覚に行使すると、対人関係で対立や摩擦を生みやすくなります。
2. 学習する組織における「パワー」
ピーター・センゲの「学習する組織(The Fifth Discipline)」では、組織内の「パワー」の使われ方が、学習や成長に大きく影響を与えるとされています。
① パワーの種類
- 「強制的なパワー(Coercive Power)」
- 上司が部下に命令し、従わせるようなパワー
- 短期的には効果があるが、組織の学習や創造性を妨げる
- 「報酬のパワー(Reward Power)」
- 昇進・給与アップ・評価などによる動機づけ
- 外発的動機づけなので、長期的な組織の成長には限界がある
- 「正当なパワー(Legitimate Power)」
- 役職や職責による権威
- 正当性があると受け入れられやすいが、トップダウン型になりやすい
- 「専門性のパワー(Expert Power)」
- 専門知識やスキルに基づく影響力
- 学習する組織では、このパワーが重視される
- 「関係性のパワー(Referent Power)」
- 信頼・尊敬・影響力を通じて周囲に影響を与える力
- 学習する組織において、最も持続的なパワー
② 学習する組織における「パワー」の使い方
パワーは支配ではなく、学習・成長のために使うことでその本質的な価値が発揮されます。パワーは「強制」や「報酬」ではなく、信頼と専門性を活かした使われ方をされるのが理想です。また、ランクの高い人(管理職など)は、組織内のランクや権力構造を意識し、対話を通じて相互理解を深める役割が求められます。そして、管理職にとどまらず、一人ひとりが個人の持つ「心理的ランク」「スピリチュアルランク」を高めることで、組織内のコミュニケーションがスムーズになり、組織全体の学習を促進することが可能になります。
上司が一貫性のない態度を見せることで、部下は困惑し、不安を持ってしまいます。しかし、上司も上からのプレッシャーや社会から求められる組織のあり方との間で葛藤が起こり、上司としても決して望んでいるわけではない関わりをしてしまうこともあります。ところが、部下からすると、こういった上司の内面で起こっていることは見ることができません。少なくともどちらかが自分の胸の内を明かにしなければ、お互いをわかりあうことはずっとできないのです。
では、どうすればいいのでしょうか?
このような組織の課題を解決する1つの鍵が 「心理的安全性」 です。
心理的安全性とは、「この職場では、自分の意見を言っても大丈夫」「失敗しても責められない」という安心感がある状態のことです。この状態をつくり出せる組織は、前に進むために必要なパワーを備えています。人は誰しも、安心安全を感じられるところでなければ、本領を発揮することはできないのです。心理的安全性が確保されている組織では、社員がストレスを抱え込まずに相談できたり、意見を言いやすくなります。その結果、仕事へのエンゲージメントが高まり、離職率の低下や生産性の向上につながるのです。
心理的安全性をつくり出すための工夫は、その組織や企業の特色を生かして様々できると思います。例えば、忙しい職場であれば月に1回チーム揃ってランチにいく、定時に仕事を終わらせてお茶を飲みながら30分簡単なふりかえり会を行う、朝のミーティングに今の気分と体調を伝えるなど、できることからやってみるといいでしょう。
あなたの組織でも身近で取り組みやすいものから導入してみてはいかがでしょうか?